[コラム]北陸の気候から考える地球温暖化
サクラ開花の異変と地球温暖化
今年のサクラの咲き方は、とても特徴的でした。全国的に観測史上最も早く開花した所が多かったこと、金沢や福井の開花が神戸や徳島より早かったことなど、地球温暖化との関係が深いようです。
村田 光広 氏(むらた みつひろ)
株式会社村田気象予報士事務所代表取締役
1968年生まれ、気象予報士
【テレビ出演】
福井テレビ「ライブニュースイット」(月〜金曜日)
❶ 年々早くなる開花
サクラの開花は、年々早くなる傾向があります。今年は、新潟、富山、金沢、福井、北陸地方の各地で観測開始以来最も早い開花となりました。右のグラフは1971年からの福井のサクラの開花日です。1971年からの10年間の開花日の平均は4月6日ですが、2011年からの10年間の平均は3月31日と6日も早くなっているのです。
❷ サクラの開花と気温の関係~ポイントは休眠打破~
サクラの花芽は前年の夏に形成されます。その後、休眠に入り成長が止まります。そして、目覚めが起こるには0~10℃前後の低温が一定期間必要で、この目覚めを休眠打破と呼びます。
その後、春先の気温が高くなると開花は早くなります。つまり、暖冬で早く咲くのではないのです。暖冬だと休眠打破が遅れ成長が遅れます。サクラ開花に必要なのは、眠りから目覚めるため冬の厳しい寒さなのです。
❸ 100年後、北陸では3月中旬に開花、鹿児島は咲かない?
地球温暖化で、100年後、サクラの開花はどのように変化するのでしょうか。
北陸地方は、100年後も1、2月の平均気温は10℃未満と予想されるため、暖冬でも休眠打破に必要な低温があり、サクラに大きな影響はないと考えられます。そして、2~3月の気温も上昇傾向にあるため、現在より開花は早くなるでしょう。3月中旬頃に開花することも考えられます。
一方、冬でも平均気温が高い鹿児島では、100年後、1、2月の平均気温が10℃以上になることが予想され、暖冬になると休眠打破に必要な低温が不足すると考えらえます。その結果、鹿児島のサクラの開花は北陸よりも遅くなる、もしくは開花しない、開花しても満開にならないと予想さています。記録的な暖冬となった去年、鹿児島のサクラの開花は、金沢や福井よりも遅かったのです。
❹ サクラ開花の異変からも温暖化が見て取れる
地球温暖化は遠い未来の話ではなく、サクラの開花という身近な所に既に現れているのです。
これまでになかったことが起きる時代に入っているのです。記録的な猛暑やこれまで経験したことがない大雨などはその典型です。それに伴い、毎年、全国で大きな気象災害が発生しています。気温上昇や気候変化が予想以上のスピードで進行し、これまでの私たちの経験が生きない時代になってきています。近年のサクラの咲き方の変化からも、地球温暖化が始まっているという見方ができます。
<豆知識> 新平年値からわかる地球温暖化
「平年値」は気温や降水量などその時々の気象や「冷夏」や「暖冬」といった天候を評価するための過去30年間の平均的な値で、気象庁は10年に一度見直しています。今年は更新の年にあたり、以前は1981~2010年の観測値が使用されていましたが、1991~2020年の観測値による新しい平年値となりました。年間の平均気温の新平年値は、旧平年値よりも全国的に0.1~0.5℃程度高くなりました。サクラの開花は全国のほとんどの地点で1日から2日早くなりました。この背景には地球温暖化の進展のほか、都市化によるヒートアイランド現象があると考えられます。