暮らしのなかの身近な放射線

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放射線の具体的な利用例

その1. (強い)放射線でモノの性質を変える!❸分子を切る(切断)
  • 殺菌・減菌

  • 発芽防止

  • 害虫防除

  • 輸血用血液製剤

  • がん治療

  • 品種改良

  • など

②食品照射(農作物や食品の殺菌、殺虫、芽止め
 食品や農作物などに放射線を照射して殺菌・殺虫・芽止めを行うことを特に「食品照射」と呼び、放射線を照射した食品を「照射食品」と呼ぶ。
 食品照射は、その安全性が最も徹底的に検討され科学的に確認された食品処理技術であり、コーデックス国際食品規格やISO規格などの国際規格も整備されている。)、植物検疫処理(不妊化)

〈海外の事例〉
 その結果、海外では多くの国で香辛料(スパイス・ハーブ類)や乾燥食品素材、冷凍・冷蔵食肉・魚介類や生野菜などの食中毒防止のための微生物制御に放射線殺菌が使われている。最も処理量が多いのはスパイス・ハーブ類であるが、それ以外にもフランスやベルギーのカエル脚、タイの発酵ソーセージなど、ニッチな市場に向けた商業照射が継続している。

 滅菌・殺菌よりも低い線量では、保存中の穀類や青果物の病害虫を駆除または不妊化(生殖細胞の分裂阻害)することによって、コクゾウムシやダニの繁殖による食害を防止できる。齧られた傷からのカビの発生防止とアフラトキシンなどのカビ毒による汚染の防止にも役立つ。
 熱帯果実などの国際貿易に伴うミバエなどの検疫害虫の非汚染国への侵入防止のための消毒(検疫処理)にも照射による不妊化が有効である。品質劣化が少なく、環境汚染につながる薬剤も使わないというメリットが大きいため、オゾン層破壊物質としてその使用全廃が進められている臭化メチルによる燻蒸処理や、品質劣化をもたらす温湯浸漬処理の代替法として国際的に実用化が急拡大している。検疫処理では、侵入した検疫害虫の繁殖・蔓延を防止するために不妊化できれば良く、即死させる必要はない。

 さらに低い線量では、ジャガイモやニンニクの芽止めが可能である。ジャガイモやニンニクの芽のもとになる部分は他の組織よりも放射線に感受性が高い。そのため、収穫後の適当な時期に適当な線量の放射線を照射すると、その部分の細胞分裂だけが阻害される。その結果、ジャガイモやニンニクを新鮮な状態で保存しつつ芽止めが可能となる。
 【図】「食品照射の実用化例と線量」の表の中で、青文字で示した品目は食品であり、緑文字で示した品目は食品以外である(照射効果の原理は同じ)。

〈日本のじゃがいも芽止め防止〉
 日本では、1974年に世界に先駆けてCo-60のγ線照射による馬鈴薯(ジャガイモ)の芽止めが実用化され、現在に至るまで毎年数千トンの芽止めジャガイモが春先の端境期に出荷され、高品質のジャガイモの安定供給に貢献してきた。

 しかし、その後は世界の動きと異なり、他の食品への放射線照射の適用については慎重な姿勢が続いており、規制の見直しは全く進展していない。表中の“ジャガイモ”以外の食品の照射は日本では食品衛生法で許可されておらず、食品添加物や残留農薬などの国内基準に反した食品と同様に、輸入も販売もできない。

 国産ニンニクの約8割を生産する青森県では、7月上旬に収穫したニンニクを周年供給するため、乾燥後に貯蔵して徐々に出荷している。常温で貯蔵したニンニクは、収穫後4ヶ月程度で萌芽や発根が起こり、商品価値が失われるため、それを防ぐために従来はマレイン酸ヒドラジド剤を利用していた。しかし、2002年にこの植物成長調整剤の農薬登録が抹消されたことから、薬剤に依存しない新たな周年供給方法の開発が求められた。試行錯誤の結果、現在は零下2℃でのCA貯蔵(酸素濃度を3%以下に保つ雰囲気制御貯蔵)と出荷直前の高温処理(38〜48℃で6〜8時間加熱)の組み合わせが行われているが、透明化や変色、りん片の表面が陥没するくぼみ症など、品質を低下させる障害の発生や萌芽抑制効果の不安定性などの問題があり、改良のための研究が続けられている。