暮らしのなかの身近な放射線

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放射線の基礎知識

❶ 宇宙ができた時に放射線も生まれた

 今から約138憶年前にビッグバンで宇宙ができた時に、陽子や中性子、電子といった物質と放射線というエネルギーが生まれたのです。
 やがて、陽子や中性子などが集まってガス状の塊になり星々が誕生します。46億年前に誕生した地球もそのひとつです。星を作った物質の中には放射線をだすものもたくさんあります。私たち人類はずっと宇宙から絶えず降り注いている放射線や地球(大地)からの放射線に囲まれて暮らしているのです。

 目に見えず、音も匂いもない放射線は、一度に大量の被ばくをすると人体への影響がある場合がありますが、日常の暮らしで浴びている低線量の放射線は人体への影響はないといっていいでしょう。そして、現代では、放射線の性質がよくわかっており、社会のいろいろなところで利用され役立っています。

 レントゲンやべクレル、キュリー夫妻らによる19世紀末の放射線と放射能の発見は原子の内部構造を解明する突破口となり、20世紀の物理学の扉を開きました。
 人体を透視するX線診断の技術はわずか数年で世界中に広がり医学に大革命をもたらし、ラジウムから放出される強力な放射線によるがん治療も成果をあげ、極微量の放射性同位元素で標識した分子や原子の行方をそれらが放出する放射線で追跡するトレーサー実験は光合成における炭酸固定反応(カルビン・ベンソン回路)の全貌解明など数多くの科学的発見をもたらしました。
 放射線と放射性同位元素に関する一連の大発見によって科学の視野が劇的に広げられたことによる人類社会へのインパクトは計り知れません。

*放射線(radiation):広義には空間を伝わるエネルギーの流れの総称であり、光や音波も含まれる。狭義には物質を電離する能力を持つエネルギーの流れを電離放射線(ionizing radiation)という。法的規則では「直接又は間接に空気を電離する能力を持つ電磁波又は粒子線」と定義される。
*放射能:不安定な原子が放射線の放出などにより自発的に安定な原子に変わることを放射性壊変(decay)といい、その性質(能力)のことを放射能という。
*放射性物質:放射能を持つ原子を放射性同位元素(RI(radioisotope))いい、RIを含む物質を放射性物質という。法的規則ではある定められた値以上の放射能や放射能濃度をもつ物質を指す。

❷ モノを変化させる、モノから情報を得る

 放射線とは、広義には、空間を伝わるエネルギーの流れであり、狭義には、物質を電離する能力を持つエネルギーの流れ(エネルギーの運び手)と言えます。
 そして、放射線は、モノを素通りすることもあれば、たまたま途中で(散乱や吸収という形で)エネルギーを失うこともある。つまり、ある素材に放射線を当てて、内部のごく一部の原子・分子だけを変化させることで、素材本来の特徴は損なわずに全く新しい機能を与えられる。これこそ、単なる加熱処理や化学処理では不可能な、放射線にしかできない得意技!

法律上、放射線は「直接または間接に空気を電離する能力を持つ電磁波又は粒子線」と定義されている。そのような能力を持つ『電離放射線』は、「物質に束縛されずに空間の中を自由に走り、物質を構成する原子の中を素通りしながら、ごくまれに電子を弾き飛ばして電離するもの」と定義できる。

ここがポイント!

 法律上、放射線は「直接または間接に空気を電離する能力を持つ電磁波又は粒子線」と定義されている。そのような能力を持つ『電離放射線』は、「物質に束縛されずに空間の中を自由に走り、物質を構成する原子の中を素通りしながら、ごくまれに電子を弾き飛ばして電離するもの」と定義できる。

1)放射線はモノを素通り(透過)しながら、所々で、たまたま通りすがりのごく一部の原子「だけ」にエネルギーを与える(作用)。

2)エネルギーを受け取った原子「だけ」が、活発に反応できる状態(活性点、ラジカル)になり、そこで化学反応が始まる。