暮らしのなかの身近な放射線

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放射線の具体的な利用例

その1. (強い)放射線でモノの性質を変える!❸分子を切る(切断)
  • 殺菌・減菌

  • 発芽防止

  • 害虫防除

  • 輸血用血液製剤

  • がん治療

  • 品種改良

  • など

⑥放射線育種(変異誘発による品種改良)
 放射線育種とは、自然に起きている変異を人為的な放射線照射によって積極的に誘発し、言わば進化を加速することによって農作物などの品種改良を行う技術である。
 1980年代に黒斑病に抵抗性のある「ゴールド二十世紀梨」の創出などの成果をあげた茨城県常陸大宮市にある農研機構の放射線育種場のガンマーフィ-ルド(γ線照射圃場)は、半径100 mの円形圃場の中央に設置された塔からCo-60のγ線を照射し、農作物及び果樹・林木等の植物を自然条件下で育成しながら変異誘発できるように設置された国内唯一の大型圃場照射施設であったが、2019年6月に使用を停止し、照射業務を終了した。

 一方で、γ線やX線ではなくイオンビ―ムの利用も盛んに進められている。イオンビーム育種は、加速器を用いて高速に加速した炭素イオン等を変異原として用いる育種法で、1998年に日本原子力研究所高崎研究所(現・量研高崎量子応用研究所)のイオン照射研究施設 TIARAにおいて、世界で初めて成果が発表された。キクやカーネーションなどの園芸作物の花弁や葉片の培養組織にγ線またはイオンビームを照射し、再生個体から得られた変異体の花色や花形の変異スペクトルを調査した結果、イオンビーム照射では、1)変異の発生率が高い、少ない試料数や小さな圃場でも成果が期待できる、2)変異の幅が広く、新しい形質が得られる可能性が高い、3)低い線量でも決定的な変異を生じるため目的とする形質変化だけを狙った改良が可能で、望ましくない変異形質を取り除くための戻し交配が少なくて済む、などの優れた特長があることが明らかとなった。

 その後もイオンビーム育種は、脇芽が少なくかつ低温開花性に優れた輪ぎくや花弁の先端に複数の突起がある珍しい花形である「かがり弁」を持つ輪ぎく、芳香性シクラメンなどの花卉類に加え、カドミウムをほとんど含まないコシヒカリ、縞萎縮病耐性オオムギ、二酸化窒素を高吸収し壁面緑化に適したヒメイタビ、トゲの消失したユズなどの穀類や果樹でも多くの新品種を作出し、さらに甘い香りの吟醸香を高産生する清酒酵母、品質保持や栽培管理に適した無胞子性のマイタケ、アミラーゼやプロテアーゼなどの有用酵素を高産生する糸状菌、微生物肥料としての輸送・保存時に高温暴露による活性低下が少ない高温耐性根粒菌など、産業微生物の育種にも成果をあげている。