暮らしのなかの身近な放射線

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放射線の身近な利用例

放射線の便利な利用法、その1
モノに(強い)放射線を当てて、内部をところどころ変化させることで、
モノの性質を改良する(照射効果の利用)。

 【図】「放射線の利用例と線量」で約1Gyよりも高線量の部分に相当する。放射線からモノに与えられたエネルギーの合計(線量)が照射効果の目安となる。
 【図】「放射線がまばらに活性点を作る」に示したように、その活性点で分子を切断することもできるし、高分子鎖間の橋かけ(架橋)反応によってゴムやプラスチックなどに硬さや弾力性あるいは吸水性などを与えることもできるし、全く別の分子を接ぎ木するグラフト重合によって新たな官能基を導入し、特定のイオンや分子を吸着する機能や化学反応を触媒する機能を繊維状の不織布などに持たせることもできる。
その際、活性点の導入後に起こる反応をどの方向に向かわせるかを、温度やpH、水分活性、共存物質などによって制御するのが放射線照射処理のノウハウであり、その結果として高分子材料の特性を劇的に変化させ向上させるような場合にこそ、放射線は威力を発揮する。具体的には、ゴムやプラスチック、繊維、不織布などの高分子材料の加工・改良に使われることが多い。
 逆に低分子の原料の全てを同じように反応させることが目的の場合、例えば水の分解による水素の製造なども可能ではあるが、放射線を用いるメリットは乏しい。

→ ❶(強い)放射線でモノの性質を変える!(1)他の分子と繋げる(橋かけ)→ ❷ (強い)放射線でモノの性質を変える!(2)全く別の分子を接ぎ木する(グラフト重合)→ ❸ (強い)放射線でモノの性質を変える!(3)分子を切る(切断)

放射線の便利な利用法、その2
モノに(弱い)放射線を当てて、内部の情報を得る(透視)

 一方、放射線がモノを素通りしながらどんなふうにエネルギーを失うかは、当てた放射線の種類と、モノを構成する原子の種類によって、全然違う。
 だから、モノを通り抜けながらエネルギーを失ってきた放射線は、どんなところを通り抜けて来たかという、モノの内部の情報を持っている。

 ここでは、骨や筋肉など臓器や組織による元素組成の違いや、肺の内部など空気の有無で、X線の透過率(減弱率)が異なることを利用して体内を透視したり、発生源に印をつけて追跡して病気の発見に役立てている。いずれも、モノを通過した、あるいはモノの内部で発生した弱い(わずかな線量の)放射線を、モノの外側に置いた検出器と相互作用させて、放射線がそこに落としたエネルギーを測定する。そして検出器に届いた微弱な放射線の飛来方向や強度などの情報から、内部の構造や元素組成、モノの内部の放射線の発生源の位置などを推定する。その際に放射線が通り抜けたモノ(測定対象物:人体や手荷物、工業製品、大型構造物など)が受ける線量はゼロではない。また当てた放射線の線量の大小には関係なく、放射線の1ヒットで局所的に起こる原子・分子レベルの変化は全く同じである。しかし、モノ全体として受けた線量は、全体でのヒット数の合計に比例し、微量であれば無視できる。(【図】「放射線の利用例と線量」で、「これ以下の線量では、生物への照射効果は見られない」と書かれた線よりも下の部分に相当)その線量域では、現実的な照射効果や影響は期待できないものの、放射線防護の立場からは人体の被曝による健康リスクを考慮する必要がある。

→ ❹ (弱い)放射線で内部を透視する!→ ❺ (弱い)放射線の発生源で印をつけて追跡する!(トレーサー利用)